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個展「はっぱのおどり」のふりかえり

東京の個展「はっぱのおどり」が終わってからそろそろ1週間が経ちそうなので、忘れる前に振り返りをしたいと思います。


きてくださった皆様、本当にありがとうございました。本当にたくさんの方に見ていただき嬉しかったです。1年分くらいお話をしました。

中村雅奈個展 『はっぱのおどり』2025年1月7日~15日 (HB GALLERY)
中村雅奈個展 『はっぱのおどり』2025年1月7日~15日 (HB GALLERY)

普段はあまりやらないのですが、今回は何を考えてこういう絵を描いたのか?というのをたくさん文章にして発表しました。

以下の文章は、会場で配布したフリーペーパーです。



【はっぱのおどり】

パーソナルワークでは植物を描くのが好きなのだが、植物をよく見て描くと、かれらと交信をしているような気分になる。東京の公園にいるときでも、島の大自然にいるときでも、似たような感覚になる。特に体調が悪い時や寝不足の時に葉っぱたちをじっと見つめていると、自分の意識が葉っぱたちに溶け込んでいくような、一種のトランス状態に陥る時がある。その状態の時、私は1ぴきの生き物として、なにか強大なものの一員に慣れた気がして安心感がある。その瞬間を追い求めて制作や旅をしている。

共感を覚えた文として、山尾三省著「新装 アニミズムという希望 講演録琉球大学の5日間」(野草社)という本に好きな一説がある。

「人がじっと木を観れば、木が人を観る。そういうふうにして世界は成り立っているんです。」

アダンにまつわる話。沖縄地上戦の時、米軍の戦闘機が機関銃を撃ってきて、弾から逃れる為にアダンの茂みに飛び込んで隠れていた。という実際の生存者の体験記がある。アダンの葉っぱは触ってみると、とても硬く、アロエのようにトゲトゲしている。実際に飛び込むと肌が傷つき、かなり痛かっただろうと思う。

奄美大島の大浜海浜公園にいった時の話。2、3メートルを超えるアダンの大群が、何百メートルも続いているエリアがあった。硬い葉っぱが生い茂っており中には入れないので、茂みを覗き込むと、はっぱが無限にぐるぐると折り重なっていた。アダンの葉のうずまきは、なんだか人間の立ち入れない結界のような、ゾッと怖い感じがした。

沖縄・久高島に泊まった時の話。夜に海まで散歩に行ったのだが、電気がないのでほぼ真っ暗で、わさわさと生える葉っぱをかき分けて細い道を歩いた。強い風が吹いていて、葉っぱがざざざざざざと唸っていて、ゆらゆらしているのが、何かを訴えかける妖怪のようで怖かったのを覚えている。

私は「御嶽(うたき)」の話を思い出した。久高島には、決して一般人が足を踏み入れてはならない「フボー嶽」という場所がある。島民から聖域と呼ばれるところで、先祖の魂が宿り、数々の祭り事を行う祈りの地であった。フボー嶽を見たときは何も感じなかったのだが(入り口だけなら見学できる)、アダンの妖怪のようなうずまきを見たときに、ここは人間とは道理が違う世界なんだ、聖域のようなところなのかも、と思った。そしてこのうずまきのような、よくわからないものを描いてみたい、と思ったのだった。

同時に、このうずまきのような大切な場所を、人間に壊させないようにするにはどうすればいいんだろう、と思う。絵で何ができるだろうと悶々と考えながら制作をしていたら、夜の絵が多くなった。私は夜に絵を描いたり考えたりすることが多い。



『嵐がきてもこわくない』2024年作 紙に水彩、色鉛筆
『嵐がきてもこわくない』2024年作 紙に水彩、色鉛筆

テキストで書いた通り、今回の絵の8割は、奄美大島や徳之島で見た植物たちをモデルに描いています。

そして、この南西諸島の生き物を描くということに、私は「植民地主義」との関係性を考えずにはいられませんでした。






少し長くなってしまいますが、

本題の前にパレスチナのことを書かせてください。

今回の展示に色濃く影響を与えた、重要なトピックです。


2025年1月20日、ようやくパレスチナへのイスラエルの攻撃は「停戦」となりました。「停戦」と表面上はなりましたが、いまだに攻撃が終わっていないのが現状です。21日22時ごろにもSNSではガザで銃声が鳴り響く動画が流れてきました。早く終わってほしい。


2023年10月7日から実に1年以上もの時間が経ちました。この世の地獄のような煙と瓦礫と肉がぐちゃぐちゃになったおそろしい写真が毎日のように流れてきて、1歩環境が違えば人間にはこんなことができてしまうんだ、と血だらけの写真を見ながらおそろしい思いになりました。そう、環境が違えば、私も人をころしたり、ころされたりしていたかもしれないのです。


私はパレスチナについて2023年10月7日まで何も知りませんでした(恥ずかしながら、という枕詞を使おうか迷ったのですが、今から知る方々もいらっしゃると思い、何も恥じることはなく気づいた時に知っていけばいいと過去の中村に伝えたいので、恥ずかしながらとは言いません)。パレスチナの歴史を調べていくうちに、この虐殺の根本に「植民地主義」という概念が関係していることを知りました。


「植民地主義」とはなんでしょうか?

小学館の『デジタル大辞泉』では、こう定義つけられています。


「植民地を獲得・維持し、拡大しようとする政策。または、それを正当化する思想。植民地支配が被植民地の近代化を促進するという考え方が背景にあった。」





現在「イスラエル」と呼ばれている土地には、かつてパレスチナ人が生活していました。

第2次世界大戦終戦後、多くの先進国が「パレスチナの土地に、イスラエルというユダヤ人のための国を作る!」ということを、強引に決めたのです。


当時、ホロコーストで難を逃れたたくさんのユダヤ人たちがいました。第2次世界大戦後に発足した国際連合では、このユダヤ人たちをどのように保護するかが課題となりました。ナチズムの反省という名目で、パレスチナからパレスチナ人を追い出し、そこにユダヤ人のための国を作ろうと決めたのです。

パレスチナの人々の意思を無視して、です。


そして1948年、パレスチナに暮らしていた約75万人のパレスチナ人を追い出して、そこに新たに「イスラエル」という国をつくりました。

パレスチナに入植した人々は、ここは我々の土地だと主張し、植民地支配を始めました。この出来事を「ナクバ」と言います。


当然、パレスチナの人々は抵抗をします。しかし、その抵抗はイスラエルの武力によって鎮圧され、多くの犠牲者を出します。

どんなに平和的な抵抗をしても(2018~2019年の「帰還の大行進」などが有名です)、その度にイスラエルは武力で持って鎮圧し、数万人規模の死傷者を出しました。


どれだけ平和的に故郷に帰りたいと訴えても、軍事力で容赦無く制圧されてしまう。国際社会は助けてくれない。

残された手段として、一部のパレスチナ人たちは、武器を取るしかありませんでした。その一部のパレスチナ人は、現在ハマスと呼ばれている人々です。



無意識のうちにパレスチナカラーの影響が出ていた1枚
無意識のうちにパレスチナカラーの影響が出ていた1枚


イスラエルに占領されていた「ガザ」という土地は、1993年にイスラエルとパレスチナが結んだオスロ合意により、パレスチナ自治区となりました。

しかし2007年以降、ガザはイスラエルに軍事封鎖されてしまいます。

人や物資の出入りがものすごく厳しく制限され、ガザを簡単に出ることができず、生活物資も少なく、苦しい生活を余儀なくされてしまいます。2021年の失業率は47%を越え、8割の人が食糧援助に頼っているものすごい貧困率でした、このことから、ガザは「天井のない監獄」と呼ばれたりします。


そして、2008年、2009年、2012年、2014年、2021年、そして2023年から現在まで、イスラエル軍はガザに軍事攻撃を行いました。原爆5〜6発分に相当する量の爆弾を落としまくったり、白リン弾という「戦争に使ってはいけないと世界で決められている残酷すぎる兵器」を使用したり、最新鋭のAIを搭載した軍事ドローンで、逃げ回るパレスチナ人を追いかけて撃ち殺したりします。


ハマスへの報復・ハマスに取られた人質解放という名目でイスラエルは攻撃をしていますが、実際のところ、イスラエル軍にとってガザは最新の兵器を試すための実験場であり、主目的はパレスチナ人の殲滅・民族浄化です。なぜなら、信仰地域に対して分不相応のものすごい量の爆弾や武器、国際法違反の非人道武器をたくさん使い、ものすごい数のパレスチナ人が亡くなっているからです。

実際に、イスラエルは、イスラエル人の人質ごとパレスチナ人を攻撃している、という実際の報道があります。


イスラエルのしていることは国際法違反で安保理決議違反です。本来であれば世界中がイスラエルに虐殺を止めさせてパレスチナ人を助けなければならないのです。現に、パレスチナ人がパレスチナ(現・イスラエルと呼ばれている土地)に帰郷する権利は世界が認めています。しかし、なぜかその権利を無視されてしまっており、止めることができていません。


入植者であるイスラエルの手により、元々その土地に住んでいた人が虐殺されたり追い出されたりするという歴史は、2025年現在まで続いているリアルタイムの出来事なのです。


「しずかなところでねむりたい」
「しずかなところでねむりたい」

改めて、植民地主義の定義を振り返ります。

「植民地を獲得・維持し、拡大しようとする政策。または、それを正当化する思想。植民地支配が被植民地の近代化を促進するという考え方が背景にあった。」


この植民地主義は、日本と無関係ではありません。むしろ、大きく関係しています。アイヌモシリの侵略、満州国健立、朝鮮半島侵略、東南アジア諸国侵攻、全て日本が過去に行ったことです。2025年現在でも強固に続いている、私たち全員に大きく関係している概念です。


日本は戦前、アジア・太平洋諸国を武力によって侵攻し、多くの人間を虐殺して、国土を広げました。

侵攻により亡くなった方の人数はおおよそ2000万人と言われています。南京大虐殺というワードは聞いたことがあると思います。

例えば、バリ島など日本では「リゾート地」として有名なインドネシアでは、400万人もの人々が殺されたと言われています。しかもこれが、戦後から100年も経っていないので、つい最近の話だということが恐ろしいです。


イスラエルがパレスチナに対してやったことを、日本も過去に行っていました。

では、現在の日本はどうでしょうか。北海道や、沖縄奄美といった南西諸島は、過去に日本人が侵攻して「日本」とした土地です。

2025年現在も、植民地主義の歴史は色濃く続いています。




『はっぱのおどり』2024年作 紙に水彩、色鉛筆
『はっぱのおどり』2024年作 紙に水彩、色鉛筆


話を戻します。


今回私が多くのモチーフとして描かせていただいた植物は、奄美大島や徳之島で見たものばかりです。

奄美大島は薩摩藩の琉球侵攻時に侵略されました。薩摩藩の一部となり、現在の鹿児島県となっている土地です。

奄美大島の歴史を見ると、奄美と本土(本州)の関係は、決して対等だったとはいえません。「黒糖地獄」「ソテツ地獄」などの言葉を聞いたことはあるでしょうか。本土の人間による税の取り立てにより、島の人々は度々苦しめられてきました。



『ソテツにかくれる』2024年作 紙に水彩、色鉛筆
『ソテツにかくれる』2024年作 紙に水彩、色鉛筆


現在、南西諸島は、南の要塞として戦争に備え準備が進められており、日米合同軍事訓練が頻繁に行われています。本土が南西諸島に「押し付けている」ものたちです。本土と南西諸島では、負担の違いが確実にあります。


私は東京で生まれ育ちました。いわば、かなり特権的な土地です。南西諸島の方からすると「本土の人間」です。そんな特権的な人間が、奄美の自然を素晴らしいと持て囃し、それをモチーフに絵を描き、東京で売るという構図が、いかに搾取的であるか。


植民地主義と暴力、日本とパレスチナ、東京と奄美、ぐるぐると考えながら悩みながら制作した4ヶ月間でした。


◻︎


悩みすぎて2024年11月、奄美大島・徳之島にいきました。1週間ほど滞在制作をしました。

そこにある植物たちはやっぱり大きくて、素晴らしい風が吹いていて、ふらふらと林を歩いて見つめているだけで、大きなものに包んでもらっているような感覚に陥りました。


やっぱり自分の原点は、植物たちに匿ってもらうことなのだと思いました。


私は躁鬱病なのですが、症状がものすごくひどかった頃、少しでも動けそうな時、たんぽぽを見つめに公園に行きました。東京の都心にある、ちょっとした芝生の広場です。じっと見つめてスケッチをしていると、だんだん自分の意識がたんぽぽに溶けていって、なんともいえない安心感に包まれていくのがわかりました。

薬を毎日飲み始めてからはだいぶ落ち着いたのですが、時折眠れない日が続くと、植物をじっと見て吸い込まれていきそうな感覚に陥ります。植物の中にとけていく、植物の中に匿ってもらえるような絵を、私は描きたいのだと思いました。



『はっぱにとけていく』2024年作 紙に水彩、色鉛筆
『はっぱにとけていく』2024年作 紙に水彩、色鉛筆


同時に、私には何ができるか、この植物たちに匿ってもらえるような安心感も本物である。そして過去に自分の祖先が吸わせたたくさんの人間の血が、この植物たちの養分となっているのだということも、忘れてはならず、その伝え方は絵画じゃなくても、一緒に漫画にしたり、テキストにしたり、いろいろな方法で両立できるはずだ、と思いました。


◻︎


個展が終わってから頭が燃え尽きてしまい、しかし次の名古屋個展まで絵を描かないと、となって手を動かしています。とりあえず鬱を吐き出し切ったあとだからか、明るいタンポポの絵たちを描いています。島で撮った可愛いたんぽぽから、氏神様である近くの神社で撮ったたんぽぽ、いろんなたんぽぽを息抜きに描いています。


これからまたどんな絵を描いていくかは全く決まっていません。また本を読んで、旅をして、手を動かした先に何があるのか不安ですが、描き続けると思います。植物の中にとけていくようなあの感覚をまだ描ききれていないと私は思っています。そしてその時間の裏にある、血みどろも描かなくてはならない、それをどうやって表現するかは死ぬまでの課題なのだろうと思います。

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